メガネの向こう


そのメガネはとても不思議なメガネで

そこから見える世界は白光に似た美しさを携えながら

静かでありながら確実に

長い間晒され続けた心を満たしてくれるのです




突然でありながら自然に

騙し絵のように姿を変えて

別物でありながら不変に

犯人のように姿を変えて




白黒の紙芝居はやがて動き出し

声と色を帯びて楽しく笑うようになりました

海辺の砂はやがて固まりだし

輪郭と質量を得て足跡を残すようになりました




何も褪せることなく明瞭で

何も霞むことなく明瞭で

何も疑うことなく明瞭で




心は生き別れたものを思い出すように

ただただ身を震わせるのです

囲う花畑のような世界の中に立って

ただただ涙を流させるのです




しかし涙で視界が閉ざされたとしても

決して涙を拭ってはいけません

涙を拭おうとメガネを外した瞬間

全ては元通りに戻ってしまいます




そのメガネはとても不思議なメガネで

だけど本当は普通のメガネだったのです

歪み傷つき汚れて欠けた

だけど元々は普通のメガネだったのです