火星


「赤いね」

「うん、赤い」

今年は火星が地球に大接近する年

月と並ぶ火星は赤く光っている

他の星は見えないのに

月と火星だけが暗い空の中で光っている

金星は遠慮して今は多分雲の中

「でも、小さいね」

「うん、そうだね」

大接近しても見える光はとても小さい

太陽系で地球の隣

でも僕たちにとってはブラジルより遠い

1千光年と1億光年の差がわからないように

その距離はただ遠い

「火星人っているのかな?」

「いても、いいよね」

人類が誕生するずっと前

川で釣りをする火星人

そんな景色があったのかもしれない

いつか地球人も荒廃した地表の下に

大事な思い出を隠すのだろうか

「もう、帰ろうか」

「あと、もう少しだけ」

一生に一度の出来事も

ただ綺麗の一言で終わってしまう

広く謎に満ちた宇宙でさえ

日々のニュースに負けてしまう

身近な世界が全て

それ以上の温かさは望まないし得られない