見ていたつもりだった
知っていたつもりだった
そんなことが多すぎて
それしかないと思えるほどに
皮を被せた虚無の中
「いつか辿り着く」
それは幻想より眩暈に近かった
例えば「世界」
それはあまりにも広い
ゆっくりとしか歩けない足と
近くしか見えない目に
残るのは言い難い蒼の感情
例えば「日常」
それはあまりにも深い
なかなか気付かない頭と
触れてこなかった手に
残るのは言い難い紅の感情
例えば「全て」
それはあまりにも限りない
その中に含まれる自分と
その外から眺める存在に
残るのは言い難い白の感情
そうやって繰り返すうちに
夢の中で夢だと気付いてしまった
目覚めるのを待てなかった
失われたのは歪んだ現実の盲目
見当たらないのは清い現実の真目
もう何もできない
目の前にいる人に話しかけることも
風に舞う木葉に触ることも
全てが怖い
「本当に無いのなら何故消えてくれない」
耐え切れなかった言葉さえ
訴えながらも誰にも聞いて欲しくない
時が過ぎた
物が過ぎた
言葉が過ぎた
多くが過ぎた
それでも目覚めはやってこない
かつて確かにそう感じていたこと
今も確かにそう感じていること
それだけは過ぎていかなかった
裏の裏は表でも
夢の夢は夢
過ぎることは変化でありながら
それ自体に変化は訪れなかった
ただ
堆積されていったものを除いて
同じように気付いてしまった人たちへ
同じように眠り続ける人たちへ
長さも深さもない
流れの中で拾う一つのもの
例えば「幻」について
蒼に固まり
紅に揺れ
白に薄まり
それらの繰り返しの後に待つこれは
勇気であり恐怖であり
希望であり絶望であり
幸福であり不幸であり
一切の決められたものを持たない
何より
それはどこまでも透明だ
裏の裏は表
夢の夢は夢
ならば
夢の幻は何になる?
ここにはここの生き方がある
ここにはここの死に方がある
見えない流れと共に
終わることなく眺める生
続くことなく溶け落ちる死
夢でも幻でもない夢の幻
全ての始まりは選んでから
「いつか辿り着く」
時々声に出して
今はただ
零の目で選ぶことが楽しい
定規よりも真っ直ぐに
そう思える自分が嬉しい