そこにはいつものように僕たちがいて
いつものように目の前の景色を眺めていた
そして、いつものように前置きもなく
彼女は真面目な顔をして僕に訊いた
「あれは五つ目の囁き?」
僕は考えた末にこう答える
「いや、三つ目の溜め息じゃないかな」
すると彼女は嬉しそうな笑顔を浮かべた
「私もそんな感動を見てみたい」
そんな意見のすれ違いに対しても
いつものように僕は一瞬間を空けてから微笑む
僕は彼女を不思議だと思っていた
そして多分、彼女も僕を不思議だと思っていた
例えば涙という言葉一つについても
彼女は喜びを
僕は悲しみを
お互いに真逆の心を連想してしまう
あるとき、僕は彼女に言った
「光ばかり見ていたら目を傷めるよ」
あるとき、彼女は僕に言った
「影ばかり見ていたら目が衰えるよ」
何も共有していない僕たちは
だからこそ一人ではいられなかった
それでもここは永遠とは無縁な場所
日常が薄れてきた頃になって
いつの間にか終わってしまったことに気付く
それは僕だけでなく彼女も同じで
僕たちは最後の瞬間を思い出せないまま
話し相手を失ってしまった
一人になった僕は光のない場所で
いつものように独り言を呟く
「ここだって、そう悪いことばかりじゃない」
いつものように繰り返す
「だって、僕の表情、誰にも見られないしさ」
こんな声は彼女には聞かせられない
曖昧な絆には曖昧な最後
元々繋いでいなかった手は何もせず
僕たちはただ、流されていった
そこに残った心はとても自由で
だけど痛いほどに寂しかった
僕はまた彼女の言葉を思い出す
「私はね、方法を探しているの」
首を傾げる僕に彼女は続けて話した
「夢の中で夢を見る方法」
だけど僕にはよく分からない
「醒めない夢を探す方がいいんじゃない?」
すると彼女は当然のように笑って答えた
「それなら、今、続いているでしょう?」
今なら分かることがたくさんあって
分からなくなってしまったものも多かった
答えたいことも訊きたいことも
今では全てが手遅れになってしまった
行き先を見失った言葉は
いつまでも僕の中でループし続けている
でも、僕は一つ肝心なことを忘れていた
もしこれが物語だとしたら
結末がなければならないわけで
物語ではないのであれば
始まりも終わりも存在しない
「久しぶりだね」
曖昧な絆には曖昧な再会
「うん、久しぶり」
光のない場所に慣れすぎてしまった僕は
酷く自分の表情が気になった