朝の世界を人の塊が一定の動きで侵蝕していく
この奇妙な光景はいつの間にか街に馴染み
しかし僕と君はそこから削がれ落とされた
流れる人波の只中で青信号を見上げ
そこで君は立ち止まることしか選べない
あるいはそこに見つける数々の十字架に
差し伸べられるはずのなかった手を与える
そうやって君はまた
躓くための石を自分の足元に置くんだろう
きっと僕が「幸せになってもいいんだよ」と言っても
悲しそうな笑顔と共に首を横に振って
一夜で十年に渡る夢を見る人々は
十年に渡って一夜の夢を見る僕たちを笑うだろうか
泣き方を忘れてしまった僕たちの涙が
やがて僕たちを溶かし去ってしまうその日まで
夢見ることが運命なのだと
日常の空気だけがそこにあって
夢の輪郭は霞んでいく
ただ君が透明の中へと消えていかないように
「君はそこにいるよ」と傍らで呟くことが
唯一のあまりにも儚い絆なのだから
僕はそれだけをいつまでも続けていくのだろう
きっとこの夢は絶望ではない
たとえそこが終わりのない円環の上であっても
僕たちは昨日の歩みを今日も続けていくだろう
そのために既に薄い影は刻々と消費され
重力さえ僕たちを留めて置けなくなったとしても
間に合わなくなってしまうその前に
いつか僕は必ず君の手を掴む
そしてそのとき僕は忘れていた笑顔を重ねて
君に終わりから始まる言葉を告げるだろう
ただ一言
「夢を待っていてくれてありがとう」と